• 1.グリーフケアとは

  • グリーフの意味は悲嘆です。
    長年連れ添った伴侶や友人、ペットなどの愛するものを失った悲しみです。
    グリーフケアというのは、愛する対象喪失から立ち直るための過程を考え、実践する方法を研究したものです。

    門前町では、少しでも愛するもの無くした心の傷を癒すことができればと
    考えてコンテンツを作成しました。
    また、グリーフケアは悲嘆にくれる本人だけの問題ではなく遺族に
    に寄り添い立ち直りを支える人にもどのようにするのがよいのか本人の心の傷を知るためにも研究者たちの本をまとめてみました。
  • 参考になれば幸いです。
  • 2.死ということ

  • 最初に死について考えていただきたく記述します。
    グリーフケアを理解するには「死」が重要なのです。
    人はいつか死を迎えることを知る生物といわれています。
    しかし死だけは亡くなった者が経験を伝えることができないのです。
    そのために自分の死への怖れと共に愛するものが亡くなったことをどのように捉えて解釈すればよいのか、受け入れればよいのかわからないのです。

  • ・死についての解釈

  • 私たちは生きている間に富、権力、健康、友人、伴侶などを愛し追及しています。死はそれらのものの喪失感をもたらし、苦痛と悲しみを与えます。
    そのために死を忌み嫌い、避けたいと思っています。

    死については「一人称の死」「二人称の死」「三人称の死」があります。
    すなわち自分の死、家族や身近な人の死、そして他人の死です。

  • 「もしも万一、死がなかったらどうなるか。我々の生は気の抜けたうすぼんやりした無意味なものと化するだろう。(中略)ありがたいことに死があるために生は自覚され会いがたい生に会いえたという感謝の念も湧いてくる。
    (中略)死後には無限の暗黒がひろがり、そこに入り込んでいくゆくさびしさは
    やりきれないが、また同時に永遠のやすらぎがありそうに思える」
    吉野秀雄:歌人

  • ・死のもつ2つの性格

  • 死が持つ性質、意味にはさまざまな考え方があり、それらを知っておくことが大切です。自分の死は体験できないこと、他人の死を経験して悲嘆に暮れたり感慨にふけること、ということしか捉えようのないものが「死」なのです。
    「死」という文字は骨を意味するのです。
  • 3.日本人と死生観

  • ・民族的な死

  • 古代、死の表現として一般的であったのは「まかる」「みまかる」「かくる」「ゆく」です。これらの言葉には、死は魂が肉体を離れる意味がありました。
    科学が発達して現代においても民族的な死への解釈は私たちの心の深層に残っています。

    例えば遺族が遺体の発見現場や死亡した場所に花を供える行為です。
    死を迎えた場所の"物"、大地、海、石などには、その人間の人格性=霊魂・死霊が宿り、付着していることを感じとる感覚があります。これは古代から行われていたことです。

    科学的には証明できませんが現代でも続くのは否定できない何かに心が現
    場に向かわせるのでしょう。
    この行為は民族、宗教に関わらず世界中でみられるのです。

  • ・死に対する時代の変遷

    自然と共に生活していた時代から科学的思考に洗脳されて自然から自己解放した現代とは死生観が変化しているようです。
  • 養老 孟司氏は「脳は現代のイデオロギー」と分析しています。

    科学の普及は「死の現状」から人を遠ざけたといえます。
    その表れが病院で最後を迎えることです。
  • ・死への不安

  • 昭和30年代頃までは家で看取るのが一般的であり、死は身近でした。
    ある年代以上のひとたちは、祖父母たちの死に至る過程を体験されています。
    犬や猫、鳥などのペットを自由に飼えた時代でもあり、人間よりも寿命の短い愛するものたち死を子供心に刻んでいます。

    高度経済成長とともに、「可視の世界」つまり視覚で捉えられることしか
    現実でなくなってきたとの指摘があります。話はそれますがお金への執着が
    わかりやすい例でしょう。

    「不可視化」されたもの、目には見えない愛情、友情、信頼、徳性などと同時に「死」が忘れ去られてきたのではないでしょうか?
    「死への不安」が増大しているのは死生観を教養として考えてこなかったからとも言えましょう。
  • 4.死への覚悟、学び ~死生観をもつ

  • ・死生観の必要性

  • 人は何らかの価値観を基に生きています。人生観、どのような生き方をしたいのか、すべきなのかといった生き様を考えています。その価値が人生の様々な選択肢を判断する元となってます。

    その基本には「人はいつか死んでいく」という心理があって、限られた時、つまり死を迎えるまでの時間をどのように過ごすのかといった悟りと覚悟があっての「生」なのです。

    西洋の感覚では老いること死ぬことはネガティブな現象だとして捉えています。死は生と隔絶したもの、点として考えています。
  • キリスト教・ユダヤ教がベース

    それに対して日本人は死は生から移行していく、生の延長線上にあると考えています。
    忌避すべきものではなくて独自の意義があると解釈してきました。
    仏教では四苦「生老病死」を説いています。しかしインド・中国とは大きく異なる自然環境に抱かれて生きてきた日本人には「無常」という感覚が意識の根底に流れています。

    この世に生まれたすべてのものはやがては消滅していく。不変不滅のものはなく、あらゆるものは変移し続けると。
    それは地震、台風、洪水、噴火などの自然災害を経験しつつも世界でも稀に見る自然の恩恵とともに日本人の自然感から生まれ、遺伝子に伝えられているからなのです。

  • 東日本大震災で海外メディアが取材した略奪、暴動のない互いに助け合う姿、そして何よりも秩序、忍辱、諦観の表情の人々。世界中で感嘆と賞賛を得たのは記憶に新しいでしょう。

  • ・死の前に表れる人格

  • 「人は生きたように死んでいく」
    突然死(事故、心筋梗塞、脳溢血)の場合を除いては人は終末医療施設(ホスピス)や病院の一般病棟で亡くなっています。家庭で看取られることは少ないのが現状です。

  • 「しっかり生きた人はしっかり死んでいく。不満・不平を言いながら生きてきた人はスタッフに不平を言いながら亡くなっていく。感謝しながら生きた人は感謝して死んでいく」
  • (「死に様こそ人生」柏木哲夫・大阪大学教授、医師、淀川キリスト教病院で
    日本初のホスピス開始)
  • ・死生観
  • 死が訪れようとしている人は他者の言葉によって、あるいは自らの思いによってひとつひとつこの世の未練を取り除き、死を受け入れる心が生まれ刃物も薬物も必要とせず自分自身で命を閉じることができるのだと信じます。
    死というものが命を捕らえるのではなく人の命が死をつかまえるのだと
    藤原信也「尾瀬に死す」より

  • ガンになって、人生の残りの時間を意識するようになった。
    ものを感じる力が深くなった。紅葉の美しさ、桜の花びらの一枚一枚の色が心に染みる。来年は見られないかもしれない思うと、見たものがいとおしく
    大切に思うようになった。
    鳥越俊一
  • 5.自らの死への準備

  • ・死の苦しみには2種類

  • 死の苦しみ
    死後の恐怖
    最後の迎え方は生き方の延長線上にしかないと多くを看取った人たちは語ります。ガン等の死の宣告を受けた人々は次のような反応を示します。
  • 1)死の否認
    死が自分に訪れるはずはないと拒否します。
    2)怒り
    次に何故、自分が死を迎えなければならないか、という怒りが湧いてきます。
    3)取り引き
    自分の所有するものを贈与するので命だけはと医師や神との約束で死を避けようとする。
    4)抑うつ
    死の兆候、予感にうつ状況に陥る。
    5)死の受容
    怒り、抑うつが収まり自ら死を受け入れるようになります。
    (キュブラー・ロス「死への5つの段階説」)
  • ただし個人差があり、これらのどれかだけの反応を示す
    と考えていたほうがよいようです。
  • 喪失
    人、関係、性、離婚、失恋、財算、地位、所有物、ステイタス、プライド、
    地震、受験・就職での失敗、子供の独立、身体的なもの、故郷等の土地
    そして人生の選択肢の喪失

  • ・死生観を学びもつ必要性~基本的な姿勢・考え方(認識)

  • 死生観を持つこと以外には死を受け入れることはできません。
    そのためには「人は死んだら無になる」という考え方は否定しなければ難しいのです。

    愛する人、親しい人が亡くなった後、その方たちのことを考えませんでしょうか?亡くなった人たちの冥福を祈り、供養しようとはしませんでしょうか?
    心の中から故人は一切いなくなってしまうのでしょうか?思い出すこともないのでしょうか?

  • そうです。亡くなった方々は生前関わった人たちの心の中に生きており思い出すことがなによりの供養となるのです。「人間とは死者とともに生きる存在」なのです。

  • 「人は死んだら無に帰るという考え方だけでは、大切な人を失ったとき
    どう折り合いをつけるか、という問題を乗り越えられなかった。」
    北野武の名言

  • ・毎日、死を意識する。

  • 「今日が人生最後の日だったらと毎朝、鏡の前で問う」
    死の準備を、心構えをすることで死の恐怖から逃れることはできます。
    ・・・人間は生まれながらの死刑囚・・パスカル
  • ・喪失体験にきちんと向き合う。

  • 老いとは仮想的な死の体験です。友人、家族、知人等の死や自分の体の機能の低下、思考力など脳の力の低下、子供の独立財産・地位等の喪失体験を経て年を重ねています。
    死が最後にあるから耐えられるのです。失ったものたち、悲しみとの折り合いをつけるときにはこれらの無常観を思い、諦めることができるのではないでしょうか。
  • ・多くの話、書物を読む

  • 生と死、魂のことをきちんと語る人の話をたくさん聴くことが大切です。
    死者が死という体験談を語り伝えてくれることができないので、私たちは死を理解できないのです。

    死に対するさまざまな考え方に触れて、心に残る言葉、光明となる言葉や話を自分の中に貯めておくことが必要です。僧侶、医師など多くの死と対面している人の言葉や話には参考になることがたくさんあります。

  • 「死は悲しむべき終わりではなく永遠の生への出発である。」
    「死後の生命を信じるか否かの決断は賭けである。存在しなかったとしても損する事はない。逆に死後の生命が存在したら、すべてを失うことになる」   パスカル
  • 6.悲嘆の段階から回復の段階へ

  • グリーフケアへの対応と心構え

  • 「親を亡くした人は過去を失う。伴侶を亡くした人は現在を失う、子を亡くした人は未来を失う、友人・恋人を亡くした人は自分の一部を失う」
  • E・A・グロルマン
  • 「別れは小さな死」フランスのことわざ、人生は別れの連続といえましょう。

  • ・悲しみの感情を表に出す。文章化や話すこと
    ・自ら語りだすまで黙って寄り添う。
    ・自助グループ、電話相談、カウンセリング等を活用する。
    ・辛かった過去の体験を振り返ってみる。
    ・亡くなった人からの贈り物を考えてみる。思い出、思いやり、感謝等
    ・信仰に触れてみる。
    ・故人のやり残したことを考えてみる。
    ・故人を思い語りかける。
  •   ~  供養、嘆き悲しむだけでは霊魂は浮かばれない。
    ・同じ体験をした人たちの書籍を読む。
  • 立ち治りのプロセス  ~  新たなる人生の始まり

  • ・喪失体験を活かす。

  • 喪失体験、大切なものを失うことで人は成長進化していきます。そのプロセスには意識下で死の恐怖を伴うのです。「自分は何のために生きているのであろう」と問い直す、生きる意味の問い直しをしなければならないからです。
  • 中年以降のものたちにとっては意識の成長進化ができないことは、過去の栄光にしがみつき自分というものを確認、把握できない、アイデンティティの喪失になるのです。

  • 成長・進化とは仏教でいう涅槃を目標としています。人として生まれ死んでいく覚悟、悟りの心境を目指してゆくのです。恐怖、不安のない至福に満ちた心境、様々な欲望を断ち切り、これまでの目標を立てて頑張る生き方から転換を図らなければならないのです。

  • そのために喪失体験や病気が機会を与えてくれるのです。大切なもの、人を失ったときに生きる意味を考えておかないと、自らの死を前ににしたときに後悔と苦しみに襲われ恐怖を感じるのです。
  • 7.愛するものを喪失した人のケア

  • グリーフケアの注意

  • グリーフケアの段階は次のようなものです。
    ・無感覚段階 :死という事実を認識できず悲嘆に暮れる。
    ・否認段階  :死んではいないと周囲に抗議する。
    ・抑うつ段階 :死を認め、激しい絶望・失意・不安状態になる。無感覚、無感動
    ・離脱状態  :死という喪失を認め、事実を理解し新たな愛の対象を求める

  • ●第三者にできること、なすべきこと


  • 1)黙ってよりそうこと、悲嘆にくれている遺族が言葉を発するまで見守り続けてあげることが最も大切です。
    愛する人を失ったということは、理解者つまり自分を受け止めてくれる人の喪失です。その代わりをすぐに近しい人はできないのです。

  • 2)「頑張れ」「早く元気に」は禁句
    「故人が成仏できない」「時間が解決してくれる」などの言葉も禁句です。
    なぜかというと他人の言葉を素直に解釈できる心境にないからです。
    「頑張れ!」と励ますと他人ごとだから、私の気持ちがわからないのに 等と
    受け取られてしまいます。その言葉によって弱音が言えなくなってしまうのです。

  • 3)弱音、本音を吐き出させる。
    抑うつ状態から立ち直らせ、喪失、死んだという現実を受け入れさせるには
    感情の整理が必要です。それには少しづつ本心を出させるのです。
    「辛い」とか「悲しい」と言える信頼できる相手が欲しいのです。
  • 4)新たな出発へのサポート
    人によって興味、関心は異なりますが、悲しんでいた本人が新たに何か始めたい、どこかに行きたい、セミナー、カルチャー教室に参加してみたいという意欲が出てきたら協力しましょう。

  • 100歳の詩人、柴田はつさんは95歳を過ぎてから息子さんの勧めで詩を
    書き始めました。本人が明確にこれをしたいという場合は別ですが会話から
    判断して情報を集めてあげたり本を勧めることなどできると思います。

  • グリーフケアのための専門機関等
  • 上智大学グリーフケア研究所
  • http://www.sophia.ac.jp/jpn/admissions/griefcare

  • 埼玉医科大学病院
    精神腫瘍科「遺族外来」
  • http://www.saitama-med.ac.jp/kokusai/division_info/16.html


  • 自死遺族支援のための
  • NPO法人 グリーフケア・サポートプラザ   
  • http://www12.ocn.ne.jp/~griefcsp/

  • ボランティア団体「日本グリーフ・ケア・センター
  • http://members3.jcom.home.ne.jp/osada-mt/

  • いやしびと
  • 一緒に泣き
  • 悲しみを
  • 受け止めて
  • くれる人
  • 人は「おくりびと」
  •    誰しもが